安全保障関連法が施行されました。いわゆる安保法制は、昨年以来、日本の安全保障政策の転換点をなすものとして広く関心を集め、議論されてきました。政策の転換や新たな現象は、しばしば時事的な政策論を超えた、アカデミックな議論を前進させる契機になります。安保法制をめぐっても、国際関係論や法学をはじめとする分野で多彩な議論が展開しました。もっとも、それがアカデミックな知見の深まりや新たな次元に繋がったかどうか、肯定・否定の様々な声を耳にいたします。
第8回研究大会では、共通論題を「安全保障をめぐるグローバルな関与と国内の論議」と題して、安保法制をめぐる政策論を脇に置いて相対化し、アプローチし直す機会とします。各国が、グローバルな安全保障上の関与を余儀なくされる一方で、その関与に伴うコストやリスクが国内で論争になっています。その動向と意義を問い直すと同時に、安全を追求すれば不可避的にかえって不安の拡大に帰結しかねない難問、すなわち「安全保障ジレンマ」について再検討できればと考えております。
再検討すべき課題は、実はグローバルな秩序をめぐって多数存在します。「グローバル・ガバナンスの民主化」は、そうした課題として最重要のものの一つでしょう。民主化は、グローバル・ガバナンスの主体や決定過程に加えて、成果としての問題解決や各国の民主化についても問われます。我々がこの問いに解答しあぐねている間に、非民主的な中進国が台頭し、期待されるガバナンス像・民主化像が揺れるという現象も生じているようです。部会「グローバル・ガバナンスの民主化は可能か?」は、意義深い問題提起の場になるものと思われます。
これに関連して、「中国によるグローバル・ガバナンス構想」は対をなす部会にあたるでしょうか。影響力を強める中国は、グローバル・ガバナンスをどのように捉え、展望し、それをどのように行動に移しているのかを検討いたします。
グローバル・ガバナンスの研究は、一方では先端的な動向を対象とし、他方では、過去の現象や歴史の問い直しに向かっております。今回の研究大会でも、前者を部会「新しいグローバル・ガバナンスの試み」が扱い、女性と安全保障、人権をめぐる企業活動など、斬新なテーマを検討します。後者の歴史実証的な研究成果は、部会「戦後アジア秩序形成の再検討」において開陳されます。
新たな対象や課題の考察には、それに適合する分析枠組み・方法を必要としますが、その検討もまた、新たな局面を拓いています。その現時点を確認し、議論する上で、部会「国際規範の質的・量的分析ツール」は最適の場になるでしょう。
今回の研究大会も新鮮でチャレンジングな報告や討論を揃えており、会員の皆様が有意義な対話を交わす機会となれば幸いです。会員の皆様におかれてはぜひ参加くださいますよう、お願い申し上げます。
グローバル・ガバナンス学会会長 大矢根 聡
▼ 期日:2016年5月14日(土)・15日(日)
▼ 会場:早稲田大学(早稲田キャンパス)
▼ 第8回研究大会 日本語プログラム (2016年5月6日更新)
▼ English Program of the 8th JAGG Convention (updated on April 13th, 2016)