グローバル・ガバナンス学会 第3回研究大会 開催ご案内

 そもそもグローバル・ガバナンスという概念が国際関係の舞台に登場し、学問的な論争の対象として急浮上するようになったのは、冷戦体制が崩壊する前後の1990年代初頭の頃であった。冷戦秩序の崩壊から新世界秩序を模索する時代環境の激変期にあって、ポスト冷戦時代のガバナンスの体系が新時代に相応しいルールの体系を軸にしたものになるのか、それとも旧来のウエストファリア体系を継承する「政府なきガバナンス」(James N. Rosenau and Ernst-Otto Czempiel, 1992)のシステムとして機能するのか等々、百家争鳴の感を呈したことは、記憶から去らない。
 それから20年余が過ぎた現在、当時の予想をはるかに超える速さでグローバル化の荒波が国境線を浸食し、“国家の衰退”現象を加速させてやまない。膨大なモノ・ヒト・カネ・情報の国境を超えた移動が、国民社会間と市民社会間の相互依存体系のネットワークの複合化を促す一方、国民社会間と市民社会間の緊張と対立を増殖させる要因ともなってきた。そこに国境を超えた「責任」論が国際社会や国内社会の場で真剣に論議されるようになる背景を見て取ることができよう。ポスト冷戦期に入って国連の場で議論されるようになった「保護する責任」論は、旧ユーゴスラビアやアフリカなどで演じられた凄惨なエスニック紛争の犠牲者を生みださないために国際社会は何をなすべきかという問題意識と深くかかわってきた。共通論題の趣旨で指摘されている「地球社会共同体責任論」は、この点を指摘したものである。
 また国境の壁の多孔化を促してやまないグローバル化の加速は、非国家主体の影響力の増大をもたらし、その結果として非国家主体の国際社会において果たすべき「責任」論が学問的かつ実践的な課題として議論されるようになった。その一端を「国連グローバル・コンパクト」の人権・労働など4分野・10原則に見出すことができる、企業の国際社会における行動倫理を指し示した諸原則を履行することが、企業のコーポレート・ガバナンスに直結することは誰の目にも明らかである。
 同時にリーマン・ショック後の金融危機が国家主体のナショナルな金融ガバナンスの有り様を鋭く問い、欧州連合のリージョナルな金融ガバナンス体系の軋みを是正する方向性を指し示した点で国家主体や地域主体の「責任」が問われてきた。同様に、情報システムをめぐる覇権競争の激化も、パックス・インフォマティカと呼ばれるようなナショナル・ガバナンスのせめぎ合いを促してやまないし、“情報のシビル・ガバナンス”との緊張を増幅させてやまない。本研究大会の共通論題として設定された「グローバル・ガバナンスと責任」というテーマの持つ意義は、重くかつ深い。

グローバル・ガバナンス学会会長 山本武彦

▼ 日時:2013年9月21日(土)10時~

▼ 会場:駒沢女子大学

▼ 大会プログラムPDF版  日本語プログラム  English Program

▼ 大会プログラム概要

  • 部会Ⅰ:自由論題(10:00~12:00)
     司会:庄司真理子(敬愛大学)
    ・ 奥村由季子(独立行政法人日本原子力研究開発機構)  「IAEA の保障措置枠組みに
      おけるガバナンス強化の変遷:人材育成活動を通しての取組」
    ・ 井上浩子(早稲田大学)  「平和構築における市民社会の役割:
      東ティモールの平和構築を例に」
    ・ 渡邉智明(九州大学)  「標準規格の国際化をめぐる公的、私的制度の交錯
      ―EU の環境規格の国際標準化戦略を事例に―」
    討論者:美根慶樹(キャノングローバル戦略研究所)、首藤もと子(筑波大学)、
        横田匡紀(東京理科大学)
  • 部会Ⅱ:グローバル・ガバナンスと金融ガバナンス(13:50~15:50)
     ・ 栗原潤(キヤノングローバル戦略研究所)・東義明(日本銀行)
      「金融規制における域外適用問題: グローバル・ガバナンスにおける課題」
     ・ 中村亨(神戸学院大学)・三宅敦史(神戸学院大学)
      「グローバル・ガバナンスから捉えた大恐慌論-欧州危機への金本位制度の教訓-」
     司会兼討論者:須田美矢子(キヤノングローバル戦略研究所)
  • 部会Ⅲ:グローバル・ガバナンスとサイバーセキュリティ(13:50~15:50)
     司会:山本武彦(早稲田大学)
     ・ 山内康英(多摩大学)  「グローバル・ガバナンスの課題としてのインターネットと
      サイバーセキュリティ」
     ・ 川口貴久(東京海上日動リスクコンサルティング株式会社)
      「サイバー空間の抑止メカニズムの限界性と可能性~帰属問題を中心に~」
     討論者:李ウォンギョン(早稲田大学)
  • 共通論題:グローバル・ガバナンスと責任(16:00~18:15)
    *日本公益学会との共催
     司会:首藤もと子(筑波大学)
     ・ 梅津光弘(慶應義塾大学)  「『責任』経営教育の進展:PRME の挑戦」
     ・ 川崎恭治(一橋大学)  「国際法からみた『グローバル・ガバナンスと責任』」
     ・ 千知岩正継(北九州大学)  「リビア以後の『保護する責任』とグローバル秩序
      ―民間人保護から体制転換へ?」
     討論者:久山純弘(国連大学)
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