かつて公共空間は、主として国内社会の中に見出されるものであった。確かに、国家の外部においてもガバナンスの存在が意識されることはあったが、その場合に焦点を据えられていたのは国家間関係 ―同盟政治や通商・金融面での国家間取引― であり、グローバル公共財の創出をめぐって国際機構と渡り合う国家の活動であった。 冷戦が終結する以前においては、この発想は妥当なものと考えられたかもしれない。しかし、冷戦構造崩壊後の21世紀初頭の世界では、この発想は通用しない。特に、2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件以降の世界は、エスニック紛争の続発やテロリズムの拡散が象徴しているように、国家間のパワー配分の変化から世界秩序の変動を読み解こうとしてきた旧来の国際関係の認識パラダイムが通用しなくなった時代を漂泊する。もはや、伝統的な国家安全保障や国際安全保障の認識枠組みでは、越境する自然災害や環境破壊や感染症、組織犯罪、人権擁護といった争点を正しく把握することはできない。冷戦の終結を機に登場した新しい安全保障観、とりわけ「人間の安全保障」が今もなお注目を集め、議論の的になっているという事実が何よりも意味しているのは、安全保障の公共空間がグローバルな広がりを見せているということ、すなわち国境を越え、地域の境界を越えるだけでなく、国家と国家が取り結ぶ関係から一人ひとりの人間が織り成す関係への視座の転換を伴うかたちで、グローバルな広がりを見せているということである。 むろん、それだけではない。20世紀後半から急速に発達した情報・通信技術は、国際関係における公共空間の圏域そのものを全世界に拡大する役割を果たし、グローバル・ガバナンスへの期待を一挙に推し進める原動力となった。空間における変容は、政策そのものの変化を引き起こす。国家の自律性を脅かすほどに国家以外の行為体が影響力を強めていくなかで、公共政策はナショナル・ガバナンスの圏域を超え、地域的な広がりや世界規模の範域を持つようになった。しかも、グローバル化した公共政策は、国内社会におけるローカル・ガバナンスや企業などでの集団内ガバナンスのみならず、市民社会におけるガバナンスをも巻き込んでいく。2004年12月に東南アジアや南アジアを襲った津波災害後の復旧事業や津波対策の越境化は、このことを端的に表す事例と言えよう。同様に2011年3月11日の東日本大震災後の展開も、むろんこれに含まれる。 国際関係や公共政策にまつわる議論に大きな転換を強いるこうした世界の変容を前にして、私たちは、グローバル空間のガバナンスを考える新たな研究組織が必要だとの認識で一致した。グローバル・ガバナンスは多くの学問領域とも複合的に絡み合う。グローバル・ガバナンスが必要とされ、機能し、フィードバックされる過程をどのように読み解くかという問題は、早急に取り組むべき理論上の課題である。私たちは、こうした認識を共有しながら、大きく変貌した世界のありようを理論的・実証的に探究していきたい。公共政策論や国際関係論を学ぶ人びとはもとより、国際機関、政府組織、民間企業、NGO・NPOなどの実践的な場で活動している多くの方々に、広く「グローバル・ガバナンス学会」への参加を呼びかけるしだいである。 2012年3月3日
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